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2004年鈴鹿4時間耐久レース 18巻 最終話

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優勝の本命馬が消えても

 

一組のキャストを減らしただけで

 

レースは、淡々と進み

 

次は、誰が「運命」という名の

 

魔物に首根っこを噛みつかれ

 

この舞台から引き釣り降ろされるのか・・

 

M君達に代わり

 

M君と同チームのK君とY君がトップに立つ。

 

彼らも優勝候補の一角

 

セカンドグループから虎視眈々と

 

自分達の仕事を着実にこなし

 

トラブルやアクシデントで沈んでいく僕達を尻目に

 

その座へ登りつめた。

 

レースは、折り返しを迎える、

 

この辺りからタイヤマネージメントが難しくなっていく。

 

グリップは、低下し始め、サイドだけ減らされていく

 

タイヤは、形状を変え 微妙に操作安定性を欠く。

 

特にライダー交代した際

 

そのライダーは、約1時間程タイヤの減りに

 

空白の時間があるので疑心暗鬼になる。

 

その不安から多くのライダーがおのずと

 

必要以上にペースを落とす

 

逆にそのような不安に囚われずペースを変えない者は、

 

あっという間にコースの外へはじき出され

 

レースから姿を消す。

 

無事完走を狙うなら 迷わずペースを落とせばいい、

 

しかし 勝ちを狙うなら

 

タイヤの状態を把握し ギリギリのところで

 

速さをキープして走り続けなくてはいけない。

 

それが正解なのか、破滅への道なのか・・・

 

気温は、どんどん上昇し

 

路面温度は、60℃付近まで上がっている。

 

一本のタイヤで走り切る4耐では、

 

我慢大会では、なく 正に綱渡り

 

それを象徴するかのように

 

トップ6内を走っていた

 

2チームが転倒により戦列から去る。

 

相方のTは、ハイペースで周回を重ね

 

自力で2台をパスし ようやく2位まで浮上する。

 

トップとの差は、約1分弱

 

スプリントじゃ絶望的なギャップだけど

 

お互いタイヤが終わりかけている状態だと

 

リスク承知でラップタイムを大幅に上げる事も、

 

リスク回避で大幅に落とす事も出来る。

 

最後のスティントを任される自分は、どちらを・・・・

 

緊張からか、軽い熱中症にかかったのか

 

両腕が痙攣しだした。

 

なんで こんな時に!

 

僕は、迷っていた 

 

一か八かの転倒を恐れない走りでトップを追いかけるのか、

 

タイヤを冷静に扱い やれる範囲で着実に追いかけるか・・・

 

その迷いが この痙攣を起こしているのか?

 

答えが出ないまま Tがピットイン

 

Tは、僕に「後は、任せた・・」と言って倒れこんだ。

 

ガソリンをチャージしている間 リアタイヤを見ると

 

スリップサインどころか

 

右側の溝は、もう無くなりかけている。

 

まだ僅かながら左側のほうがマシに見えた

 

ガスチャージが終わると同時に車両にまたがり

 

ピットを後にする。

 

何かに安心したように腕の痙攣が止まる

 

こんな灼熱のアスファルトの上を

 

沸騰したヤカンのような車両に乗ってるだけで

 

頭イカれてる

 

何時間も走り、タイヤもサイドがちびって三角になってる。

 

それでも やっぱり走り出すと

 

興奮するとかじゃなく

 

ただただ安心するんだ

 

この場所、このチーム、ペアライダー

 

この展開、このポジション、この緊張感

 

この背景があってこそ

 

このCBRのシートが僕にとって最高に心地いい。

 

 

アウトラップもギャップを埋める大切な要素

 

ペースを乗せて タイヤの左右のグリップを探る

 

やはり右側は、かなり か細いグリップ力しか残っていない

 

対して左側は、まだしっかりしている。

 

まだ多少の無理は、効くな・・・

 

右コーナーは、現状維持

 

左コーナーだけペースを上げて追いかける!

 

基本 僕のほうが2秒から3秒速い

 

それでも レース後半だけあって 全体のペースが遅く

 

周回遅れの数が半端じゃない。

 

ギャップを縮める周もあれば ゼロの周もある

 

同じタイヤで同じ周回数でも

 

テストの時に比べてラップタイムの落ち込みは、

 

予想より大きく最高で4秒程ロスしている。

 

この混沌とした中でもイエローフラッグには、

 

注意を払わなくてはいけない。

 

周回遅れをパスすることに気を取られ

 

フラッグ無視などしたら それこそ そこでレースが終わる。

 

何度も足元をすくわれそうになりながらも

 

見えない トップの#30を追いかけるが

 

結局 その姿を捉えることなく

 

ゴールのチェッカーは、振られた。

 

トップとの差は、32秒

 

4時間のレース後 欲しかった一番は、

 

32秒先にいたんだよ。

 

32秒・・ロードレースなら大差の大敗だ

 

それが1時間でも1分でも0,1秒でも・・・

 

 

パレードランの後

 

決勝レースを走った68台の中でグランドスタンド前で(当時)

 

多くの観客に祝福されるのは、3台 3組 6人だけ

 

チームの社長、チームスタッフ達に「お疲れ様」と

 

お互いを労う握手をする。

 

スタンドアップされたCBRのタイヤを見ると

 

見事なまでに 溝は、無くなっていた、

 

ありがとね 最後まで壊れず走ってくれて。

 

Tは、大泣きしていた 

 

安堵か悔しさか自責の念か・・

 

僕には、わからないけど もう終わった事

 

もしかしたら 立場が逆になっていたかもしれないし。 

 

そしてお互いを称え合った。

 

テストの段階からお世話になっていた

 

HRCアドバイザーのOさんや朝霞研究所のOさん

 

ブリヂストンサービスのSさん 多くの人から労いの言葉を頂き

 

多くのスポンサーキャップと共に2位の表彰台に上がる。

 

長かった

 

ST600 4耐になって 4回出場

 

予選ポールポジション2回、2位1回

 

自らの転倒や他車との接触で決勝レース最上位は、12位

 

最後の4耐で ようやく結果らしい結果が残せた。

 

僕にとって4耐優勝がレース人生の

 

終着駅と位置付けていたんだ

 

それは、かなわなかったけど

 

後悔は、一片も無いよ。

 

 

大人になっても 多くの人と出逢い

 

叱られ、褒められ、感化され

 

時には、喜び 時には人前でも大泣きし

 

いつも全力で挑んでいた。

 

こんな濃い時間を過ごす事が出来て幸せだった

 

色々な感情を吐き出すように

 

思いっきりシャンパンファイトをしてやった。

 

 

 

表彰式、プレス会見が終わり

 

チームのテントに戻ると 心身共疲れ切っていたのか

 

死んだように眠りました。

 

翌日

 

8耐が終わった後

 

ホンダのパーティーがあり

 

そこで8耐、4耐の表彰台に上がったライダーが

 

皆さんの前で紹介されます。

 

とても光栄な事で 自分の人生に

 

こんな瞬間があるなんて 想像も出来ませんでした

 

そのパーティーの帰り グランドスタンドへ行きました

 

静かな夜のコースを眺めていると

 

ふ、と頭上から視線を感じ 見上げると

 

そこには、ガラス張りのアナウンサールームがあり

 

そこにいた人が誰かわからないけど

 

僕に向かって親指を立ててグッグッド!としてくれました。

 

たぶん チームシャツを着ていたし

 

パーティーで貰った花束を持っていたので

 

きっと僕だと解ったんだと思います。

 

僕は、その人に花束を掲げた後 一礼し

 

その場を去りました。

 

 

 

僕に関わった全ての人達

 

鈴鹿サーキット

 

本当にありがとうございました。

 

 


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